2025年の脱退一時金制度改正について

2025/11/18

SolveHRの玉造です。

2025年の年金制度改正により、「脱退一時金制度」に大きな見直しが行われます。
今回の改正は、単なる給付要件の変更にとどまらず、外国人労働者の老後保障や企業の実務対応にも影響を及ぼす内容です。ここでは、改正のポイントと背景、企業が取るべき対応について分かりやすく整理します。

1. 改正の概要

2025年の年金制度改正では、脱退一時金制度について次の2点が変更されます。

(1)再入国許可中の請求禁止

改正後は、再入国許可の有効期間中には、脱退一時金を請求できなくなります。
施行時期は公布から4年以内とされており、遅くとも2029年前後までには適用が始まる見込みです。

これにより、「日本に戻る前提で一時帰国している期間」に、脱退一時金を受給することはできなくなります。

(2)支給上限の引上げ(5年 → 8年)

現行制度では、脱退一時金の支給対象となる年金加入期間の上限は5年です。
改正後は、この上限が8年まで引き上げられます。

2. 制度の背景と目的

脱退一時金制度は、1995年に外国人向けに創設された制度で、日本の公的年金に加入していた期間に応じて一時金を支給する仕組みです。

近年、

が進む中で、「老後に日本の年金を受給する機会」を確保する必要性が高まってきました。

そのため、

といった政策的な狙いがあります。

3. 現行制度が抱えていた課題

現行制度のもとでは、次のような誤解や不適切な実務運用が問題となっていました。

一時帰国でも「脱退一時金を請求できる」という誤解

一時帰国のタイミングで、

本来、社会保険の資格喪失は「退職時」に限られるべきであり、
一時帰国の場合は、在職のまま 「休職扱い」 とするのが適切です。

不適切な手続きが発覚した場合のリスク

不適切な資格喪失手続きが発覚した場合、企業側には次のようなリスクが生じます。

今回の改正は、こうした不適切な運用を抑制する意味合いも強いと言えます。

4. 改正後に想定される影響

改正内容を踏まえると、今後、外国人労働者や企業の行動に次のような変化が予想されます。

(1)改正前の駆け込み申請の増加(~2029年前後)

現金給付を優先する外国人労働者の中には、

しようとする動きが一定程度見込まれます。

(2)「単純出国」による申請増加

改正後は、再入国許可中の請求ができなくなるため、

するケースが増える可能性があります。

企業としては、こうした動きが自社の人材戦略・雇用計画にどのような影響を与えるか、あらかじめ検討しておく必要があります。

5. 企業側の対応ポイント

今回の改正は、外国人労働者本人だけでなく、受け入れ企業や監理団体にも実務対応を求めるものです。特に、以下の点が重要となります。

① 外国人労働者への周知・教育

まずは、脱退一時金について、次の点を正しく理解させることが重要です。

「今お金がもらえる」メリットだけでなく、「将来の年金が減るかもしれない」というデメリットも含めて説明する必要があります。

② 実務上の取り扱い

人事・総務・現場担当者向けには、次のような実務ルールを明確にしておきましょう。

こうした社内ルールやフローを整備し、担当者への研修やマニュアル作成も検討すべきです。

6. まとめ

今回の脱退一時金制度の改正は、

企業側には、単に法令に従うだけでなく、次の姿勢が求められます。

脱退一時金制度の改正を、外国人雇用のリスク要因としてではなく、
「日本の社会保障制度を理解してもらい、信頼関係を高めるチャンス」と捉え、
早めの情報整理と周知を進めていくことが重要です。