SolveHRの玉造です。
2025年の年金制度改正により、「脱退一時金制度」に大きな見直しが行われます。
今回の改正は、単なる給付要件の変更にとどまらず、外国人労働者の老後保障や企業の実務対応にも影響を及ぼす内容です。ここでは、改正のポイントと背景、企業が取るべき対応について分かりやすく整理します。
2025年の年金制度改正では、脱退一時金制度について次の2点が変更されます。
改正後は、再入国許可の有効期間中には、脱退一時金を請求できなくなります。
施行時期は公布から4年以内とされており、遅くとも2029年前後までには適用が始まる見込みです。
これにより、「日本に戻る前提で一時帰国している期間」に、脱退一時金を受給することはできなくなります。
現行制度では、脱退一時金の支給対象となる年金加入期間の上限は5年です。
改正後は、この上限が8年まで引き上げられます。
脱退一時金制度は、1995年に外国人向けに創設された制度で、日本の公的年金に加入していた期間に応じて一時金を支給する仕組みです。
近年、
外国人労働者の長期滞在
再入国を前提とした往復・在留の増加
が進む中で、「老後に日本の年金を受給する機会」を確保する必要性が高まってきました。
そのため、
再入国許可中の請求を制限し、将来的な年金受給の道を残す
上限8年とすることで、今後創設される
育成就労(3年)+特定技能1号(5年)
の通算8年間の就労期間をカバーできるようにする
といった政策的な狙いがあります。
現行制度のもとでは、次のような誤解や不適切な実務運用が問題となっていました。
一時帰国のタイミングで、
「日本を離れるから脱退一時金を請求できる」
と誤解し、在職中にもかかわらず社会保険の資格喪失手続きを行い、脱退一時金を請求する事例が見られました。
本来、社会保険の資格喪失は「退職時」に限られるべきであり、
一時帰国の場合は、在職のまま 「休職扱い」 とするのが適切です。
不適切な資格喪失手続きが発覚した場合、企業側には次のようなリスクが生じます。
資格喪失の取消
保険料の遡及徴収
既に支給された脱退一時金の返還要求
今回の改正は、こうした不適切な運用を抑制する意味合いも強いと言えます。
改正内容を踏まえると、今後、外国人労働者や企業の行動に次のような変化が予想されます。
現金給付を優先する外国人労働者の中には、
再入国許可を取得したうえで一時帰国し
改正施行前に脱退一時金を請求
しようとする動きが一定程度見込まれます。
改正後は、再入国許可中の請求ができなくなるため、
在留資格を一度失って「単純出国」し
本国に帰国後、脱退一時金を請求
するケースが増える可能性があります。
企業としては、こうした動きが自社の人材戦略・雇用計画にどのような影響を与えるか、あらかじめ検討しておく必要があります。
今回の改正は、外国人労働者本人だけでなく、受け入れ企業や監理団体にも実務対応を求めるものです。特に、以下の点が重要となります。
まずは、脱退一時金について、次の点を正しく理解させることが重要です。
脱退一時金の趣旨は、老後保障のための年金制度の一部であること
一時金を受給した期間は、年金加入期間から除外されること
その結果、将来の年金受給資格や受給額に影響する可能性があること
「今お金がもらえる」メリットだけでなく、「将来の年金が減るかもしれない」というデメリットも含めて説明する必要があります。
人事・総務・現場担当者向けには、次のような実務ルールを明確にしておきましょう。
一時帰国中は、原則として**「休職」扱い**とし、社会保険の資格喪失をしない
退職が確定した場合にのみ、資格喪失手続きを行う
監理団体・送り出し機関・社労士・専門家と連携し、誤った手続きや説明が行われないようにする
こうした社内ルールやフローを整備し、担当者への研修やマニュアル作成も検討すべきです。
今回の脱退一時金制度の改正は、
外国人労働者が日本の年金制度を理解し
短期的な現金給付だけでなく、**長期的な生活設計(老後保障)**を考えるきっかけ
となるものです。
企業側には、単に法令に従うだけでなく、次の姿勢が求められます。
制度の趣旨を踏まえた適切な情報提供
不適切な資格喪失手続きやトラブルを防ぐための実務体制の整備
外国人労働者の人生設計に寄り添う、パートナーとしての姿勢
脱退一時金制度の改正を、外国人雇用のリスク要因としてではなく、
「日本の社会保障制度を理解してもらい、信頼関係を高めるチャンス」と捉え、
早めの情報整理と周知を進めていくことが重要です。